リバーサイド・ホテル
こんにちは〜。
すっかり秋めいてまいりました。今日なんて本当にすばらしく気持ちいい行楽日和ですね。会社帰りの私が言うとなんか僻みのようですが。
さて。
行ってきました韓国の出張です。やっぱこれしないと仕事になんないし。お給金がもらえないしね。
いつもと同じおんぼろホテルに滞在してました。そのボロさ加減はちょうど「21えもん」の「つづらやホテル」みたいな感じです。
これが「21えもん」なら芋ほりロボなんかと楽しくやるとこですが、現実のボロ宿というのはいつだって世知辛いモンでございます。
というのは、フロントの人の大変な底意地の悪さ。毎回フローリングの部屋を念押し予約してから行くのですが、いつも蓋を開けたら臭いの染み付いたじゅうたんの部屋に勝手に変更されています。これはもう7回連続で、もはやがっかりするのも面倒臭い。チェックイン時の厳かなる儀式のように恙無くスルーしております。
というか、日本語が通じないので文句が上手に言えないんです。溜め息まじりのスルーで自分の言語能力のなさを悔やむばかりでございました。
そう、今までは。
いや、今回も例によって私に用意されていたのはじゅうたんの部屋だったのです。そしてその儀式はいつも通りもう済ませていたのです。私の諦めによって。
一度夕方にチェックインしてから再度フロントに鍵を預けて仕事に出かけたんです。ご飯も食べて、ぶらぶらリサーチなんかもして、会社の人に頼まれてたお土産なんかも買ったりして、戻ったのは22時過ぎ頃だったでしょうか。
ホテルの入り口は日本では事故多発によりすっかり見かけなくなった回転ドアーなんですが、ドアーに挟まるような形で寝そべってるおっさんが一名。なんか独り言しゃべってるし怖いし、これではホテルに入れないじゃないか・・・と困っていました。
フロントの人は・・・見て見ぬふりを決め込んでいます。
まあ奴には期待などしていない。せいぜい知らん振りしてればいいわ。
だれか韓国人の宿泊客が出入りしようとさえすれば、自動でおっさんに「どいてくれ」と言ってくれるのだから。と開き直ってコンビニでコーヒーでも買って飲みながら遠巻きにドアーを観察していたのです。
しばらくしたら期待どおりに韓国人の宿泊客が出てきておっさんに「どいて」と言ったみたいで、そそくさと便乗してホテルに入りました。
知らん振りしてたフロント野郎へのムカつきは表に出さず、華麗に鍵を受け取ってエレベーターに乗ろうとしたその瞬間。
おっさんがエレベーターに猛突進してきたのです。
うわぁ・・・ちょっとヤバイかも・・・と思いながら大急ぎで非常階段の方へ走って事なきを得ましたが、数階上ったところでおっさんも追いかけてこなかったので安心。気になって踊り場からこっそりフロントの様子を見てみたんです。
フロント野郎はおっさんに絡まれていました。何を言ってるのかわかんないけれど、大声で何か言われてる。おぉ、これはついに自分にもフロントの受難をお目にかかれる時が来たな・・・なんて、フロントに負けず意地悪な気持ちに浸りつつ、見物。
しばらくはおっさんの猛攻が続いて、見飽きてきたので部屋に戻ろうとしたら、おっさんの何かの言葉をきっかけにフロントの我慢メーターが振り切れたらしく、突如としてフロントのターンが始まった。
フロントはなにかものすごい勢いでおっさんを罵っているらしく、おっさんもヒートアップ。掴みかかろうとしたところで、フロントはさっとその場を離れ、ケータイで通報。
おまわりさんを呼んだみたい。
これにて一件落着かと思い、部屋に戻りました。
電気が点かない・・・。何度スイッチをいれても点かない。これは何かの罰なのか。
半なきで全部のライトをチェックすると、なんとすべての電球が取れそうな程ゆるゆるに設置されていて、ねじを締めるだけで点灯できた。
なんや、ただの嫌がらせか。こんなことだろうと思ったわ。日本のリーマンをなめんなよ、何回このホテルに泊まってると思うのか。このくらいは慣れとるわ。なんて、強がりながら落ち着こうと荷物を運びいれました。
すると、一人ぼっちのはずの私を出迎える何かがいました。
ゴキブリです。
みるみるうちに湧き上がる、しょっぱい敗北感。
はっきり言ってこれには絶望しました。危うく帰りたい度がマックスになり振り切れて大声で夫の名を叫びながら帰りたい助けてくれと号泣するところだった。
しかし、このホテルを庇うつもりはないが、このボロ宿ではそりゃゴキブリも住むさ。これはきっと不可抗力、嫌がらせではなかろう。
仏のような心で唇をかみ締め、しかしこのままでは落ち着けないので電話をかけた。
私の信頼する韓国人。仕事相手の方に、「ゴキブリって韓国語で何?」と質問するためだ。しかしファッションの仕事をしている者同士が日ごろ害虫の話題になることはこれまでになく、意外と通じず、「英語でローチのことなんだけど・・・」とか「ほら、家にでる茶色っぽい虫で・・・」とかごにょごにょやり取りした後、ようやく教えてもらえた。
韓国名、バキブルリ。
発音をあえて字にすれば、「バキブゥルリ」といったところでしょうか。
似てるではないか。「バキ」の爆発音っぽい発音があの虫の禍々しさを増幅させる、いい名前だ。
そうとわかれば、と意気揚々とフロントへ降りていき、おっさんと警察とのやりとりで非常に疲れきった顔をしたフロントに向かい、
「バキブルリ ガ イッソヨ!!!バキブルリ!!!!!」
と真に迫った顔を作って大声で叫んでみた。
きっと韓国人から聞いたら「ゴキブリアルョ!!!ゴキブリ アル!」みたいな漫画っぽい感じだったことだろう。フロントにはおっさんと警察の様子を見物する野次馬がまだけっこういて、彼らの笑いをおおいに誘ったようだけど、そんなのはどうでもいいのです。
フロントの人は、はぁぁぁ〜っ・・・とものすごく大きな溜め息をつき、頼むから大声で言わないでくれという感じで殺虫剤を持って出てきた。
なんか遂にこのフロントに勝った気がした。
お互いに疲れ果て、勝利の味はかなりばかばかしく空しかったです。
もうこのホテルに泊まることもないでしょう。
あ、これは、外国のホテルの悪口じゃなくて、相手が日本のホテルでも同じことされたら同じようにしてると思うよ。ほんとにほんとに。